Square: グーグルやアマゾンよりコワイ急進中フィンテック?
更新日:2020年9月2日
GoogleやAmazon以上の脅威? いま急進中のフィンテック企業は「Square」
前回、GoogleやAmazonなどの「ビッグテック」の金融サービスへの進出について書きましたが、今回は、フィンテック企業の中でも有名なSquare(スクエア)社について詳しくご紹介します。
◆金融機関の死角? 刺客? 米Square社の可能性
米Square社は、2009年、リーマンショックの直後に設立された新世代フィンテックベンチャーの草分けとも言える存在です。
かつて、POS端末を持てない規模の米国の中小小売店舗は、決済面で大手に対して不利でした。しかし、Squareの提供するサービスのおかげでカード決済が可能となったことは大きな意義があるでしょう。
実際に、現時点までSquareの決済収入は、このような「ブリック・アンド・モータル」と呼ばれる実在店舗での決済が大きな割合を占めています。ちなみに、2020年春のコロナ禍で、同社の決済残高(Gross Payment Volume)は打撃を受けました。
ところがその後、アメリカの株式市場(特にテクノロジー関連)の急激な回復とともに、Square社は株価上昇の筆頭企業となったのです。
業界アナリストからは、銀行などの既存の金融機関にとって脅威なのは、AmazonやGoogleのようなビックテック(巨大ハイテク企業)ではなく、Squareのようなフィンテック企業であるという意見も出ています。
Square社をはじめとするフィンテック企業が、金融機関の存続を脅かすのは何故か、今回はその理由と現状を紹介していきます。
◆フィンテック企業「Square社」の事業内容は?
●Square社の2つの事業セグメント
Square社には大きく分けて2つの事業領域があります。
1. 小売店舗(マーチャント)向けのエコシステム
2. 消費者向けアプリ「CashApp」(P2P送金システム)

まずは、現在の売上の多くを占めている小売店舗向けシステムについて紹介します。
1. 小売店舗(マーチャント)向けのエコシステム
現在小売店舗の決済システムとしてよく見かけるのが、POSレジ、スマホ決済などです。下の写真のシステム、見覚えがありますよね。

Square社では、このように小売店・レストラン向けの総合的サービスをSaaSの形で提供しています。具体的には「給与計算」「予約管理」「Squareカード」「EC(ネット通販)」などが挙げられます。
またSquare Capital(小売店向けの事業資金前貸しプログラム)を通じて短期の資金提供も行っています。この加盟店を総合的にフォローするエコシステムがあることが、Square社の強みと言えます。
【マーチャント向けの総合的サービスの例】
· チーム管理
· レポート・分析
· 在庫管理
· 決済端末
· CRM(顧客管理システム)
· ロイヤルティ・プログラム
写真を参照すると、Square社の総合的なフォローを見える形で確認できます。

●加盟店向けサービスの成長性は?
米国の小売店舗にSquare社の端末はかなり浸透しているように見えます。では、ここで頭打ちなのか、この先も成長機会はあるのかについても見ていきましょう。
米国内にて、このような決済端末を利用する可能性のある中小の小売業者は2,000万社あるとのことです。

これらの全ての店舗からの総売上高は6兆ドル、そして決済手数料は850億ドル。これがSquare社やその競合他社が狙っているマーケットです。
さらにSquare社は海外4カ国にも視野を広げています。
カナダ・日本・オーストラリア・英国の市場規模を合わせると、1,000億ドルの市場機会があるのです。
しかし、Square社の現在の市場浸透率は3%ですから、逆に言えば成長性は限りなく大きいと言えます。
これらの市場で旧型の決済システムを利用している小売業者をSquareのエコシステムへ転換する、つまり新規顧客獲得の余地はまだまだあるのです。
●ECサイト(ネットショップ)は必須ではない
コロナ禍もあり、実店舗からオンライン店舗(ショッピング機能のついたECサイト)への移行は進んでいます。しかし、そのサイトを構築する余裕がない加盟店も多数存在します。
そこでSquare社は、ECサイトなしでも決済が可能という柔軟なアプリ「Square Online Checkout」を開発・運用しています。
【Square Online Checkoutの特徴】
販売対象の商品ごとに
· 商品名・価格の入ったリンクを作成
· メール・SNSなど複数の媒体にてシェア可能
· 買い手はリンクをクリックして即時購入・支払い
店舗側がこのシステムを利用するときにかかる費用は、取引時の手数料(3%前後)のみになります。初期費用・月額費用などがかからない極めて柔軟なサービスは、既存の金融機関にとっては大きな脅威となるでしょう。このように、Square社の小売店舗向けシステム、及び売上は、まだまだ伸びしろがある状態です。

次に、最近急進している送金アプリについても見ていきましょう。
2.「消費者向けの送金アプリ」CashApp
Square社が個人に向けて提供する、P2Pを使った送金システム「CashApp」は、Square社の株価が急上昇した要因の一つです。
こちらはコロナの影響もあって、この短期間で2倍の成長を見せているのです。
CashAppは元々、P2P(個人間の送金。初期にはPayPal、最近はVenmoが有名)のアプリで、その後、支払い・投資などの機能を備え、月間取引数は増え続けてきました。具体的には、2015年は100万回だったものが、2019年12月には2,400万回まで増加しています。
コロナによる自宅待機が始まってから特にユーザーが増え、CashAppのダウンロード数は2020年4~5月にかけて20.1%増加、ダウンロード総数は同時期に400万回に達しました。
Venmoのダウンロードは250万、PayPalは200万ですから、CashAppの強さが窺えます。これは、CashAppが税金の還付、政府からの景気浮揚補助金の受け取り、給与小切手の預金などに使われているからです。
また、2020年第一四半期のCashAppからの売上は5億2800万ドルとなりました。これは前年同期の3倍近くです。このうち、ビットコインからの収入が半分以上となっています。

また、自宅待機期間中は、個人による株式への投資が急増しました。それもCashAppにとってはビジネスチャンスだったのです。端株投資など少額積み立てでも利用しやすい機能を提供したため、株式やビットコインの購入にもCashAppが使われるようになりました。
続いて、他にもコロナウイルスによる影響があったか、Square社の現状を紹介します。
◆Square社の底力は、「中小企業向け金融サービス」での高い評価
●コロナウイルスによる影響は?
2020年、コロナウイルスによる経済危機は深刻です。
米国の第2四半期(4~6月まで)の小売業の売上は減少し、Squareを始めとする小売店舗相手の決済企業にとっては非常に難しい状況となっています。
Squareの第2四半期の業績は8月初めに発表される予定ですが、以下の措置を執ったことにより、小売店舗部門からの業績は圧迫されると見込まれています。
【Square社の措置】
・3~4月、同社のPOSソフトウェアの使用料金を免除
・経営困難な加盟店の契約を一時停止
●長期的に見たSquare社の成長性
コロナ禍による売上の落ち込みはありますが、Square社の長期的な売上高を考えてみると、プラス要素の方が多いと株式市場は考えているようです。
個人経営の小売店でもスマホでクレジットカード決済ができるということで、マーチャント(小売業加盟店)向けのサービスは、対象の加盟店の規模が堅調に推移しています。
実際、2018年の第1四半期~2020年第1四半期の間に、年商50万ドル以上の加盟店からの総決済高(GPV)の割合が20%から25%に増加。逆に売上12万5,000ドル未満の小規模加盟店からの売上の割合は53%から48%に減少しています。このように、同社の売上高が今後も増加することが見込まれているのです。
また、Square社の2番目の業務部門である前述の「消費者向けの送金アプリ」(CashApp)の収益も急速に伸びています。この将来性が、株価が急伸した理由の一つです。
●コロナ対応でピンチをチャンスに
コロナの影響で自宅待機が推奨された当初、Square社を始めとする各決済プラットフォーム、クレジットカードなどの取り扱い数は激減しました。実店舗での売上が下がったからです。
しかし、その後の4月にはオンライン決済がプラス成長し、全体としては回復が早まったという傾向が見られます。
Square社においては、決済のうち3分の1程度が元々オンライン決済でした。それが4月のGPVでは約50%に増加しました。
そうなった理由の一つとしては、Square社の加盟店において、コロナ以前からオムニチャネル(同一のビジネスが実店舗、オンラインなど複数のチャネルで行われる)が進んでいた点が挙げられます。実店舗の売上が下がっても、オンライン店舗の売上が上がれば、決済手数料は順調に入ってきます。
●キャッスレス決済の急増
コロナ禍による大きな社会変化の一つは急速な「キャッシュレス化」の進行です。
Square社の調査によれば、同社の加盟店のうちキャッシュレス*であったのは2020年3月1日時点ではわずか8%でした。それが、4月23日には31%に増えているのです。
(*キャッシュレス:支払いのうち95%以上がクレジットカード、もしくはデビットカードである店舗)
Square社はこの点において、取りこぼしなく決済手数料を徴収し、売上とすることができています。
◆GoogleやAmazonよりも金融機関の脅威に?
さて、米フィンテック企業に関して著名なアナリスト、Ron Shevlin氏は、「既存の金融機関にとって、Square社はAmazonやApple、Googleなどの巨大企業よりも脅威である」としています。
その理由はなんでしょうか?
元々、AmazonやGoogleは銀行業を圧迫する方向性で歩みを進めていません。銀行と競合するのではなく、金融機関にとっての技術ベンダー・流通チャネルになる道を選ぼうとしています。
一方Square社は、こういった道を歩んでいません。2020年3月18日には、FDIC(連邦預金保険公社)から銀行業の免許を付与されています。つまり、同社の中小企業向け金融サービスや消費者向けのCashAppは、共に銀行から顧客を奪う可能性があるのです。
◆Square社と競合するのは「Shopify社」や「Stripe社」
一方、フィンテック企業はSquare社一強というわけではありません。
中小企業向け金融タスクのうち「どの企業がどの位のニーズを満たしているか」という分析の上位3位には、Stripe社、Shopify社といったSquare社の競合に当たるフィンテック企業が入っています。この他、フィンテック・ベンチャー大手であるPayPalも同様のサービスを提供しています。
特に、急成長中のShopify社とSquare社は、ビジネス分野が重なってきています。
ただここで肝心なのは、「フィンテック企業同士の戦いになるかはわからない」ということです。
フィンテック企業がシェアを奪う相手はSquare社ではなく、古い決済システムを提供している既存の金融機関、となることが十分にあり得ます。
◆まとめ――中小企業向け金融サービスはまだ1%しか完成していない――
フィンテック企業のリサーチ・コンサル企業である「11:FS」による米国中小企業向け金融サービスの分析結果が出ています。それによれば、既存の金融機関は中小企業向け金融サービスのニーズのうちまだ1%程度しか満たしていない、となっているのです。

出所:11:FS
特にPayPal、Square、Stripeの3社はマーチャント・EC・決済を結ぶエンド・ツー・エンドのプラットフォームを形成、中小企業である加盟店のニーズの多くをカバーしています。

すなわち既存の金融機関にとって、中小企業向け金融サービスの競合相手は、他の銀行ではなくSquareのようなフィンテック企業のビジネスプラットフォームだと言えます。
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画像: 注がないものはSquare公開資料、又は筆者作例
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