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Zillow:米国不動産業界の巨大プラットフォーマー

更新日:2020年9月14日


最近、幾つかの「ビッグテック」、つまりGoogleやAmazonなどの巨大なプラットフォーマー(プラットフォームを提供し様々なユーザーを取り込む企業)が金融サービス分野に進出する、という解説記事を書きました。


【参考ブログ記事】




一方、金融関連分野でも今までは多少、遅れ気味だった不動産売買を効率化する「不動産テック」に最近は注目が集まっています。


その分野での巨大プラットフォーマーは米国ではなんといってもジロー(Zillow)で、既存の金融業界からも同社による不動産の買い手の「囲い込み」は脅威だ、という声も。


そこで今回はZillowのビジネスモデル、本当に「銀行業務」に進出しようとしているのか、などについて見てみました。


Zillowについて


Zillowは2005年に創立された、シアトルに本社を置く不動産プラットフォーム・ベンチャーです。


不動産の買い手に物件に関する価格などの情報を提供し、買い手と不動産業者(バイヤー側のエージェント)をつなぐ役割を果たしています。


Truliaなど関連分野のベンチャー企業数社を買収し、グループ全体ではデータベースに掲載されている物件数1.1億件、ポータルへの年間アクセス数80億、ユニークユーザー数は1億7000万人という、不動産では全米最大のプラットフォーマー。


Zillowはまず何からはじめたか


Zillowのもともとのビジネスモデルは不動産エージェントに物件をつなぐ、すなわち情報提供をもとに不動産業者に顧客リードを提供するの広告収入モデルでした。下図のようにZillowの画面を見ると右手に、推奨する不動産エージェントのリスティングが載っています。










物件の情報を調べている買い手は、まだ自分で使うエージェント(買い手側の不動産屋)が決まっていない場合、このエージェント・リストをクリックし相談する。不動産業者にとっては、顧客リード獲得の機会となるわけです。


(ちなみにこの、「顧客リード獲得」ビジネスモデルが現在、「リード・ジェン」モデルと呼ばれ注目されてます。)


同社では対象となる不動産の基本的な情報だけではなく、ゼスティメイト(Zestimate)呼ばれる価格推定システムを持っています。このシステムは特許を取っており、大量の不動産データをアルゴリズム分析することで、物件の現在の推定価格がおよそわかるというもの。


これは買い手にとっては大変参考にあるなる情報(今までは不動産屋に頼んでおおよその値段を算定してもらわなければならなかった)なので、例えば持ち家の購入を考えたとき、まずZillowで探すという人は非常に多い。


リスティング収入だけでは売り上げが伸びない


こういった巨大な不動産ポータルとなったZillowですが、エージェントからの広告手数料や広告収入だけでは以前ほどのペースで売り上げが伸びなくなり、近年は不動産ポータルでのデータ、アクセス数を生かして、住宅を直接買取り、再販するという転売モデル、さらに住宅ローンに進出しています。


転売モデルも面白いのですが別の機会に回すとして、まずは「リード・ジェン」の本題である住宅ローンを見てみましょう。


銀行を買収、住宅ローンに進出


Zillowでは2018年10月にMortgage Lenders of Americaという住宅ローンのプロバイダーを買収してZillow Home Loansとブランド変更し、住宅ローンの組成など、直接住宅融資の提供で合理化するところに進出しました。


それまでは住宅ローンを提供する金融機関とはパートナーとして紹介するという共存関係だったのが、集客の後、直接住宅ローン組成までプラットフォームとして提供することになり、金融機関にとっての競合となったわけです。


実際、金融業界ではZillowのように顧客を直接集められるプラットフォームは大きな脅威とみられています。


Zillowは銀行になるのか?


それでは、Zillowは銀行になるのでしょうか?


同社のここ数年の業績を見ていると、住宅ローン事業はそれほどの伸びを見せていないようです。


こちらのセグメント別売上高のチャートではローン事業を始めた2018年以来、セグメント別の売上高では住宅ローンの成長は低く、売上高成長率の方は2019年の第4四半期にはマイナスの伸びとなっています。




さらに、2020年の第一四半期、1月から3月期でみると、既存のメディア事業、つまり広告収入モデルの事業が10.9%の上昇を見せているのに対して、住宅ローンの部門は前年比でマイナス7.6%、下降傾向にあります。


融資はZillowのDNAとは違うのでは


Zillowにとって、新規部門のうち、住宅の買取、転売は前年比で約500%増加しているので、おそらく住宅ローンより、こちらのセグメントのほうに重点を置いているのだと思われます。


さらに考えられるのは、そもそも住宅ローン事業はもともとの同社のDNAと違うのでは、ということです。


米国では住宅を探すときに、不動産というGoogleサーチをするよりも直接「Zillow」というワードで検索をする人の方が多いという点から考えて、顧客候補を獲得する上ではZillowのビジネスは極めて有効だと思われます。


しかし融資の申請者を集めることとその申請を審査し、融資の供与をする事は企業のDNAとして全く違うと思われるのです。


実際に住宅ローンを出すためには、申請者の融資返済能力の審査が伴います。


融資の認可決定の2つの大きな要素は申請者の収入を元にした返済能力と、もし焦げ付いてしまった場合の為の担保となる不動産の価値の算定です。


そのうち不動産の査定についてはZillowではある程度のデータを持っていますが、それでも個々の住宅特有の情報までは把握していない。(米国では中古住宅の転売がほとんどなので個別の問題点があることが多い。)


さらに、住宅ローンの融資をする金融機関にとって返済が焦げ付き、担保の住宅を差し押さえるのはまさに「最後の手段」であって、できれば避けたいことです。


そのため、本来的には住宅の買い手である、住宅ローンの借り手が、給与その他の収入で返済を賄えるかという審査が中心になります。


この部分が、全米で極めて多数のリード獲得ができるZillowのオンライン事業と、M&Aで傘下に入れたMortgage Corporation of Americaの審査・融資能力にギャップがあり、顧客のリード獲得しても処理しきれていないと思われます。


さらに、住宅ローンの資金源としてコストの安い資金が大量に必要です。


(または、住宅ローンのオリジネーターとして、獲得した融資案件を他の銀行に転売することも多いのですが、既存金融機関がローン資産を買ってくれるには、審査の基準がしっかりしており、買取に値する資産の質があることが必要。)


現在同社の住宅ローン事業が成長していないのは上記のうちどこかの要因で躓いている。というよりも融資事業自体が同社のDNAにあっていないのではないか、と思います。


ただし今後においては、もしZillowのような会社が比較的審査が定型的になっている住宅ローンの審査方法を、データ分析、アルゴリズムなどを駆使して効率的に審査できるようなシステムを取り入れるか、その能力を持ったベンチャーの買収などで審査能力を効率化した場合、同社の住宅ローンの引き受け能力は格段に上がるかもしれません。



【まとめ】


既存の金融機関からは、Zillowのような、業界の特定のセグメントで圧倒的な吸引力を誇るプラットフォーム企業が融資事業に進出した場合、太刀打ちできない、と恐れる声がよく聞かれます。


こういったベンチャーがマーケティングの上では大きな力を持つことは確かなのですが、一方こういったマーケティングに強い企業が必ずしも融資のノウハウを持っていないことも多い。


そのため、少なくとも現時点ではGoogleやアマゾンなどのプラットフォーム企業は、企業の既存の金融機関をバックエンドで味方につけて、金融事業に進出しています。


ですので、こういったビジネスモデルをよく見ていき、ただ単に脅威だと見るよりも、こういったプラットフォーム企業とどういった組み方をすればこの先の発展に寄与するかということを考える必要があると思います。





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著者について

 

 

在米30+年、サンフランシスコ近郊在住の金融戦略コンサルタント。主に日本の金融業向けに米国フィンテック事情・フィンテック・ベンチャーを参考とした金融イノベーション戦略、ベンチャー提携サポートを提供。

証券・銀行・投資業務・フィンテック・ベンチャー参加を経て独立。

東京外国語大学卒業、スタンフォード大学MBA。

 

ダイエットに苦戦中。

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