銀行支店の一万倍の勢いで口座を獲得するネオバンクの戦略
このベンチャーは普通の銀行、信用組合などの支店での口座開設の約10,000倍の勢いで新規口座を毎週獲得し、現在全米で5000以上ある銀行のうち、トップ15に躍り出ています。
バンクモバイル
ベンチャー企業の名前はバンクモバイル(BankMobile)、2015年に資産約一兆円規模のの米国中堅地銀(スーパー・コミュニティバンクと自称)であるカスタマーズバンコープ(Customer Bancorp)の1部門として創立されました。
カスタマーズバンコープは4年間で1億ドル(約100億円)以上を投資しバンクモバイルをデジタル専門の銀行として開発。現在約250名の従業員がこの部門におり、そのうち40%以上が技術開発とユーザエクスペリエンス(UX)の設計に関わっているとしています。
バンクモバイルは現在口座数200万口座以上を持ち、すでに米国で口座数からするとトップ15に入る金融機関に成長し、2019年のLendIt Fintech年次アワードで「最も革新的な金融機関」に選出されました。同社では現在、年間約30万の新規口座を獲得しており、「米国で最も急成長中のデジタル・バンク」とされています。
金融機関の支店の口座獲得能率
現在、アメリカでは既存の銀行・信用組合などの金融機関の主な口座開設手段はまだ、支店でリアルでというのが一般的です。しかし支店一つで獲得できる口座は平均して週に1件と言われ、これでは一支店に置いて年間約50口座の獲得しかできていません。
それに比べてバンクモバイルでは毎週、一万口座近くを新規獲得しています。しかも新規口座獲得コストは一口座あたりたった10ドル。既存金融機関の新規口座獲得のコストは一口座当たり300から500ドルに上ると言われているためコストの方は数十分の一となります。
では、このベンチャー企業はどうやって、こういった超スピード、および超低コストの口座獲得をしているのでしょうか。
大学生向けの口座
まず1つ目のマーケティング戦略は、全米の800にわたる大学、短大等と提携し、学費の支払いをバンクモバイルを通じて行う契約でした。
同社のアプリは一から、モバイルネイティブの今の大学生向けに開発された極めて扱いやすいもので当初から学生に受け入れられる要素がそろっていた。一方大学の方では数々の金融機関から送られる小切手をいちいち処理するよりも、何もしなくても自動で学費が払い込まれるバンクモバイルのシステムが格段に効率的であり、極めて歓迎されました。
大学生相手の口座は、当初は銀行としてはあまり収益源になりませんが、卒業後約10年位でクレジットカード、自動車ローンなど複数の金融商品の顧客になり、また10年過ぎた後で結婚・家庭を持ち、持ち家を購入する際にはさらに住宅ローン・生命保険等の高価格の金融商品の販売が見込める、アップセルの対象顧客となります。
T-Mobileとの提携
またバンクモバイルでは2019年に入って米国の大手携帯キャリアであるティーモービル(T-Mobile)との提携により、同社ブランドのT-Mobile Moneyという普通銀行口座の提供を開始。この口座は上限が3000ドル(約300,000円)までの預金に限り4%と言う高い利息をつけています(ただし、それを超えた分については1%)。
B2B2CとBaaS
こういった提携によるマーケティング、顧客獲得戦略を同社では「新しいビートゥービートゥーシー(B2B2C)と呼んでいます。
B2B2C自体は新規の用語ではないですが、既存の金融機関B2B2Cが
「Bank to Branch to Consumer(銀行から支店を介して消費者にリーチ)」
であったのに対し、新規のB2B2Cは
「Bank to Business Partners to Consumer(銀行から提携パートナーを介して消費者にリーチ)」
というわけです。
また自社のサービス形態を、「Bank as a Service, BaaS」(サービスとしての銀行業、バース)とも読んでいます。つまり銀行が必ずしも「ブランド」ではなく、他の(T-Mobileなどの)ブランドの後ろで「銀行サービス」の提供が事業、というわけです。
このBaaSモデルも特に同社の造語ではなく、特に2019年後半になって、大手小売店のウォルマートがBaaSの先駆けとも言えるフィンテックベンチャー、グリーンドット(GreenDot)との大規模な契約を更新し、またGoogleやアップルなどの大手のブランドが金融サービスに本格的に参入するなどの話題でも注目されている事業形態です。
大手ITブランドの金融業参入発表が相次ぐ中で、その裏側で金融のメカニズムをサービスとして提供する金融機関も注目されるようになったわけです。
BankMobileでは以下のセクターに、パートナー企業を選ぶ候補として注目しています。日本でも参考になるのではないでしょうか。
コンシューマ向けブランド(大手テク、通信、大手子売店、スーパーなど)
航空会社
ゲーム会社
サブスク・サービス
ギグエコノミー
従業員が多い大手企業の福利厚生として
大規模団体
フィンテック・ベンチャー
まとめ
日本でも米国でも、トップの一握りの金融機関が顧客の資産のほとんどを保有しており、中位以下の金融機関はどうやってニッチを見つけるかと、苦労しているするケースが多いと思います。
特にアメリカでは、銀行の総数が多く、全部で5000社を超えています。
このうちトップ1%の大手銀行が全体の半分、50%の資産を持っており、99%の金融機関はその他の50%を分けています。
そこでこの99%の金融機関が、どうやってニッチを見つけるかが死活問題にもなっています。そういった中で、既存の中位地方銀行の1部門プロジェクトとして始まったバンクモービルのこれだけの躍進は、ケーススタディーとして注目に値します。
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