AIは何に使われているのか

本年4月に Microsoft が音声認識のトップベンチャーであったニュアンス（Nuance Communications)の買収を発表しました。＄2 Billion、約2兆円という巨大な金額です。

ニュアンスは音声認識と言ってもただ声を確認するだけではなく、人工知能、AI を使って認識した音声を言葉にするという過程でAI を使っている例として知られています。

昨年、本年とすでに AI 分野へのベンチャー投資は加熱しており投資数も多かったですが、このマイクロソフトによる買収を受けて、AI 分野へのベンチャーキャピタルの投資はさらに加熱するのではないかと Tech Crunchでは予想しています。

CB Insights社によると、本年で2021年の第1四半期にすでに世界中で626件の AI スタートアップへの投資が行われたと発表しています。取引金額は1707億ドル、約2兆円に近いです。ちなみに昨年2020年全体ではこの数字は全部で2334件だったということです。

この投資熱の背景は単に投機ではなく企業経営者がすでに AI の採用を視野に入れているということがあります。Signal AIが企業トップ1000名を対象に行なった調査によるとその約92%の経営者が企業は意思決定のプロセスを改善するために AI を活用すべきだと考えており、79%がすでにそうしていると答えています。

また、AI のスタートアップの出口としては IPO だけではなく、 Microsoft とニュアンスの大型案件に見られるように、米国の巨大ハイテク企業5社のうち4社がこれまで多数の、AIに に特化したスタートアップを買収しています。特に Apple がトップでこれまでに19社の買収ということです。

画像：CB Insights

AI投資の内訳としては断然応用 AI、つまりニュアンスのように AI を特定の機能に特化して使用しておりそこで AI がどう役に立っているのか、 AI を使った結果が明確に分かって応用や商業化の計画がしやすいというものに投資が集まっているようです。

それに対してより抽象的な AI、コアAI と呼ばれていますが、こちらの分野への投資熱は低いようです。

コア AI としては昨年12月に株式上場したc3.aiが著名で、 とてもしっかりした企業だと思うのですが、上場時の投資家向け資料の中で株式公開後に売上高が急速に伸びるというのを予想しているのを見て、コア AI を顧客に理解してもらってどんどん売るのは結構大変で、それにしては大胆な予測だと思ったのも覚えています。

それでは、コアではなくて応用 AI が一番使われている分野はどんなものがあるでしょうか。

CB insight 社によると、全ての AI のセクターの中で最も多く投資を集めているのが医療分野の AI です。2021年第1四半期だけでもこの分野で115件の投資、 総額26ドルを超える過去最高の資金調達となりました。

医療分野での AI の利用は様々なパターンがありますが、特に近年伸びているのは患者の医療請求の状況やスマートフォンから取得した生体情報などの膨大なデータを用いてアルゴリズムを訓練することで、より正確な判断ができるということに用いており、この分野が大きな成長を遂げています。こういった膨大なデータの処理でより質の高いケアと効率性を追求することは医療業界に適しているというわけです。

医療分野の他にセクター別 AI への投資が多いのは金融保険分野であり、この分野のスタートアップは金融保険業界に特化したコンプライアンス、不正検知、バックオフィスオートメーション、パーソナライズされた財務管理、アンダーライティング、チャットボットなどのアプリケーションに取り組んでいます。

また、業界横断型で、特定の機能を行う業界横断的 AI への投資は、それよりも急速に増加しています。近年第1四半期には横断型 AI アプリケーションによる資金投資は昨年同時期に比べ25%増加しています。

業界横断型は例えば、コロナによって企業が業務をどんどんオンライン化する中で、 サイバーセキュリティ、ワークフロー管理、セールスおよびカスタマーサポートなどの分野でAIソリューションの採用が進んでいます。

もう随分前から話題になっている AI ですが、本年は投資額・実用化共に加速する年と言えそうです。