BaaS、Banking for Brands、それとも土管銀行?
更新日:2020年9月11日
リーマン危機の後、およそ2010年代から始まった現在のフィンテックブームで、フィンテックが銀行業務にも進出し始めてから久しいです。
また最近では、そういったいわゆるフィンテックバンク・ネットバンクのほかに、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)と呼ばれるビッグテックも金融業務への進出を加速しています。
そんな中で昨年あたりからBanking as a Service、又はBaaSという言葉が目につくようになりましたが、特にGAFAや他業界からの金融業務への参入が増え、このBaaSが注目されています。今日はこれをまとめてみました。
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フィンテックの銀行業務進出
現在の第二次フィンテックブームで、おそらく1番目につくのは、消費者向けの新世代の銀行、米国ではいわゆるネットバンク、オンラインバンク、インターネットバンク、またはデジタルバンクなどとも呼ばれ、ヨーロッパではチャレンジャーバンクと呼ばれることが多い業種。 代表的なものには米国ではSimple、SoFi、Chime、Varo Moneyなどがある。 こういった新手の消費者向けフィンテックがすごい勢いで預金口座を獲得し、顧客を集めているのを見て、ひとつ浮かぶ疑問は、彼らは銀行免許を持っているのか。銀行のバックエンド業務は誰がやっているのか、ということでは無いだろうか。
銀行業免許はほとんど持ってない
結論から言ってしまうと、米国ではほとんどのネオバンクは総合的銀行免許は持っていない。消費者相手のデジタルオンリーのネオバンクで、米国連邦政府が出す総合銀行免許を取ったのは、2020年7月にVaro Moneyによる取得が初めて。
なので、他のネオバンクは基本的にはバックエンドで、銀行免許を持った金融機関と提携してその銀行が、免許が必要な金融業務を担当していることになる。
こういったフィンテック・ベンチャーだけの参入のうちはまだ、銀行業界全体からしたらそれほどの規模ではなかったのだが、昨年からGoogle、Amazon、そしてFacebookといったいわゆるGAFAが金融業に進出を加速している。
Amazonはもともとは投資銀行であるGoldman Sachsとがっちり組んでいるし、Googleは当初Citibank及び地元の信用組合であるStanford Credit Unionと組んでいたが、2020年8月に新たに6行の金融機関を提携先に追加。それぞれの金融機関の顧客層に合ったサービスを提供すると発表している。
ここで、このバックエンド側を提供する銀行業務が、BaaSと呼ばれ注目されるようになったわけです。 BaaS? ホワイトラベル? Banking for Brands?
ちなみに呼び方は前述のBaaSの他にホワイトラベルバンキング、などがあったが、最近目にする用語で、Banking for Brandsというのがある。つまり、自社ブランドを持つB2C企業(例えばナイキとか。まあ、極めて多数ありますが)が自社ブランドで金融機能も提供しようとする際に、裏方の金融コア機能などを提供する商売、ということである。 Banking for Brandsがどんなイメージかというと、欧州のの代表的なBaaSであるSolarisbankのブログにこんな風に書かれている。`(以下、筆者による要約)
例えば航空会社を例にとると、顧客の消費行動を分析することでその顧客をよりよく理解し、より適したサービスを提供する(それで、もちろんもっと売上げを上げる)ことができる。その為に、航空会社ブランドのクレジットカードを出し、顧客がどこで何を買っているかのデータを取れるようにする。
だがその際に航空会社はカード・決済・信用度などの管理はコア事業ではないので金融機関にまかせることになる。
さらに優良顧客に対して例えばウェブサイトで直接、航空券の分割払いなども提供することによって、他のクレカ会社に取られる利息収入を獲得、またこういった便宜によって航空券の売り上げも増やすことができるかもしれない。
さらにブランド企業がローンを提供できることの意味は、通常、顧客との関係は特に金額が大きくたまにしか買わない航空券のようなものであれば、一度の販売だけで終わってしまうことが多いが、ローンを組むことによって返済までの間、顧客関係を続けることにある。
一方こういったバックエンドの銀行業務を土管銀行と呼ぶこともある(金融業界からすれば多少、自嘲的な響きがある)。
ハードルが高い銀行免許 呼び方はともかく、銀行免許を取得するには多額の資本準備だけではなくマネーロンダリング防止、守秘義務、預金保護などにいろいろな厳しい規制がある。前述、米国フィンテックで金融免許を取得したVaroの場合、創業の2015年にすぐに出願、以来苦節5年かかって「やっと」取れている。 そこで、「すべての業種は金融業になる」といわれる時代に、参入したいすべての企業が銀行免許を取得する事は現実的ではなく、具体的にはホワイトラベル、BaaSを利用して規制、法的、または技術的な障害をさっさと取り除くことで、他業界からの金融業務への参入を加速させることもできる。
BaaSの提供機能
一般的なホワイトラベルバンキングサービスには次のようなものがある:
普通預金および当座預金口座
デビットカード・クレジットカード
請求書の支払い
オンライン決済・送金システム
個人向けローン・住宅ローン
保険
取引の履歴・明細書
残高通知
(出所:Business Insider) BaaSはもと欧州から始まったが、米国で主なBaaSとして活動しているのは主に以下の会社があり、米国でのフィンテックバンク、ネオバンクと言われる企業のほとんどはこのうちのどこかと提携し、バックエンドとして使っている。
特に著名なのはGreen Dotで、1999年設立のフィンテックですがウォルマートの金融サービスのバックエンドとして提携していることで知られている。
Green Dot
また、Radius Bankは2020年2月にフィンテックのLendingClubにより買収されていますがこれはフィンテックが既存銀行を「逆買収」した(米国では)最初のケースと言われています。このこのときのインタビューで、LendingClub側は「Radiusの、API接続などが完備されたオープンなアーキテクチャが買収候補としての決め手となった」と発言していました。
また、銀行の基幹業務に当たるバックエンド以外でも、決済部分のみをテクノロジー企業に頼ることもあり、この分野ではMarqetaや、最近ネオバンクのSoFiに買収されたGalileo Financial Technologyなどの決済企業がBaaSに入れられることもあります。
出所:Galileo Financial Technology
リーバイスモデル? さて、こういったBanking as a Serviceが果たして金融機関にとっての新しいビジネス機会なのか、それとも土管銀行といわれるように本当にベーシックで差別化できない機能だけに終わってしまうのか。 それは最終的には誰にもわからないのですが、ただ、シリコンバレーでは昔から「リーバイス方式」の勝利、いう例えがあります。 これは最近発行された海部美知さんの「シリコンバレー金儲け」にも出てきますが、
カリフォルニアがビジネスの拠点として大きく発展した最初は1848年の金鉱の発見で、この後7年ほど「ゴールドラッシュ」と呼ばれる時代が続いた。
· 1849年に、いわゆるフォーティーナイナーズと呼ばれる金鉱探しの人たちが東部から大挙して押し寄せ、一攫千金を狙った
· しかし結局、彼らのほとんどは金を掘り当てられないか、多少掘り当ててもそれをギャンブルやお酒で使い果たしてしまったケースが多いらしく、結局今になるまで、この金を元手にして存続している企業はない
· 一方、その坑夫に洋服を売ることで一躍、発展したのが今でもジーンズで有名なリーバイス(Levis)
· また、坑夫や取れた金の輸送で発展した鉄道会社のオーナーであったスタンフォード氏は、事業を大きく発展させ、後にスタンフォード大学を設立する資金を築いた
1990年代後半の「ドットコム・バブル」ではPet.comのような「ナントカコム」B2Cが乱立、そのほとんどは消えたが(Amazonはこの例外)、「土管」であったテク企業ではCiscoなどが今も健在
つまり、「一攫千金」のフロントエンド事業よりも、そのフロントエンド相手に商売する地味なバックエンド(土管業務)の方が継続して儲かる、というたとえです。 なので、次々と参入するフィンテックバンク及び、ブランドや小売業などが金融機能を持つのを裏から支えることで発展する金融の形態があっても全くおかしくはないと思えます。
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