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  • chako2

米国フィンテックのバーロ(Varo Money)が銀行業免許を取得


「銀行業のライセンス」はどうしてそんなに難しくて複雑なのか



日本では比較的目立たないニュースだったのだが、7月末にアメリカのフィンテック、いわゆるネオバンクであるバーロ(Varo Money)が銀行免許を取得したという報道があった。



(ちなみに日経記事の見出しではバーロとなっていますが発音はVaroなので正確にはこのビデオの6秒目あたりを見て下さいね。)



画像:Varo Money



苦節5年!


さてこのニュースを見たとき


「やっと!」とか「苦節何年」という言葉が頭に浮かびました。


というのも、約1年半前2018年の11月に、ラスベガスで行われた「Money2020」の会場でVaroの幹部とインタビューしたのだが、その時点で「もう、本当にすぐに銀行免許が取れる」、みたいな調子だった。仮の認可はもう取れている、監督省庁から予備通知も来ているというので「もう数ヶ月先かな」という感触。


それから1年半以上である。


同社は2015年に設立してすぐに銀行業ライセンスの申請をしたとのことなので、まさに苦節5年。またその幹部によれば、同社では経営陣に業界経験者が多く本当に、コネも強く経験豊富なので承認機関の信用信頼を得やすく、話がスムーズに進んでいるとのことであった。


それでも5年かかった!


で、今回は、米国で銀行業のフルの免許を取るのが難しいというけどそもそも「銀行業免許」とは何なのか、というところをちょっと見てみたいと思います。


スクエアも銀行業免許取得?


ところで、アメリカのフィンテックに詳しいフィンテック・ウォッチャーの方は知っているかもしれないのだが今年の3月に、スクエア(Square)が銀行免許を取得して銀行設立への道を向かっているという報道があった。


日本では日経の「金融コンフィデンシャル」という割とマイナーな記事が多いコラムで、「電子決済サービス大手のスクエアに銀行免許が下りたのだ。」とある。


ではフィンテックの筆頭のようなスクエアに銀行免許が降りた後、どうして今回Varoが「フィンテックで初めての銀行免許を取った」という報道があったのだろうか。


実は米国の銀行業のライセンスと一口にいっても非常に複雑で種類がたくさんある。全部解説したら百科事典並みの厚さになってしまうと思われるので今回は避けますが、多分日本よりももっと複雑な原因の1つは各州がそれぞれに付与するライセンスと、全米(連邦)レベルの認可の両方があるせいだと思う。



銀行業免許の種類


ちなみに銀行の3大業務(預金、貸出、為替)の中で、1番規制が厳しいのが預金業務で、これは各国ほとんど同じ(のはず)。自己資本規制を始めとするガチガチの規制があります。


これは考えてみれば当たり前で、例えば我々庶民が銀行から住宅ローンを借りた上でその銀行が潰れてしまってもまぁ基本的には、お金はもうもらっているわけだから困らない。


一方銀行に預金しておいてその銀行が潰れたらそれは大変で、そのリスク緩和のために預金保険制度があり、預金を保証している。米国ではFDIC(Federal Deposit Insurance Corporation)という公的機関がそれを担当しています。


それではFDICの保証があるので、参入した金融機関が潰れたって困らないのではないかと思うのは早計で、それは預金した個人には保証があるのだが、FDICだって資金に限りがあるので、いい加減に参入されて倒産されたらFDICだってたまったもんではない。


そこで預金を含めた総合的な銀行業のライセンスは取得するのが非常に難しく、フィンテックには今回初めてというわけである。


ちなみにVaro社自身の正式発表によると今回のライセンスは



となっている。


直訳すると


米国史上初、消費者向けフィンテックが連邦規制当局の完全承認を得て連邦銀行となった


となり、


  • 消費者向けフィンテック(事業者向けなら他に先例がある)

  • 完全な承認(銀行の全業務が出来る)

  • 連邦銀行(特定の州の認可ではない)


の3点がミソである。


消費者保護の観点から、消費者対象の銀行業免許の方が事業者向けだけ、よりもハードルが高い。


ちなみに2020年3月にSquareが取得したのは、Industrial Loan Company (ILC) という免許で、全米でいくつかの州がこのライセンスを出しているがほとんどはユタ州によるものでスクエアもユタ州から取得している。


ILCの大きな特色は、この免許を取得した銀行子会社の親会社が金融業でなく他業界でもいいということで、これがインダストリアルという名前の元だと思われますが、これによって他業種の金融参入に使われており、例えばアメリカでトヨタの金融子会社である銀行(Toyota Financial Savings Bank)なんかもこの免許を取得している。


この免許でも、預金を受け付ける事はできるのだが連邦のフル銀行免許と違い、いくつかの制約があり一つは資産が1億ドルを超えると当座預金を取れないという制約。


これに比べて、融資業務の免許取得は比較的簡単で、例えばVaro Moneyでも現在21州から貸金業の免許を取得している。


ところで、フィンテックによる既存の金融機関の業務の破壊的な影響というのはよく聞くのですが銀行ともろに競合するかどうかはその会社によって違い、少し前にアマゾンやGoogleのについてのブログにも書いたように、テクノロジー企業が、銀行の本質業務への進出はあまり意図していないのではないか、というようなケースもあります。


一方、今回全米でのライセンスを取得したVaro Moneyのように、既存の金融機関と競合して顧客を獲得、金融機関業務をおこなうターゲットとなっている場合も。


同社の場合は先の1年半前のインタビューの際に、


米国では上位9行が預金金額の約半分を占めているが、他に銀行が5000行以上ある。当社では上位9行のターゲット顧客は狙っていないが、それ以外の地銀の顧客のうち、「中の上」所得層を積極的に狙っていく

とはっきり言っており、同社はアメリカにとっての地銀にとっては強力な競合相手になるかもしれません。





著者について

 

 

在米30+年、サンフランシスコ近郊在住の金融戦略コンサルタント。主に日本の金融業向けに米国フィンテック事情・フィンテック・ベンチャーを参考とした金融イノベーション戦略、ベンチャー提携サポートを提供。

証券・銀行・投資業務・フィンテック・ベンチャー参加を経て独立。

東京外国語大学卒業、スタンフォード大学MBA。

 

ダイエットに苦戦中。

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